
HASSELBLAD 503CXi PlanarCF80mmF2.8 Kodak PORTRA160VC
広い敷地の例えとしてよく利用される東京ドーム。
近くを通るとその巨大さと半球体の形に見入ってしまうが、
その傍らにドームの影のように存在している庭園がある。
特別史跡と特別名勝の二重指定を受けている「小石川後楽園」だ。
この庭園は水戸藩初代藩主・徳川頼房が築き、
水戸黄門で有名な徳川光圀によって完成に至った庭園。
随所に中国様式をとり入れているのは光圀の儒学思想からである。
少し肌寒く感じるようになった時期に、私はここを訪れた。
本格的な紅葉シーズン前で観覧する人もまばらだったため、
ゆっくりと園内を散策でき、
気がつくと自然とファインダー越しにその美しい景観を眺め、シャッターをきっていた。
特にカメラ越しに見る中国様式の朱色の橋や庵は、色づき始めた紅葉と重なって、
より一層鮮やかにこの庭園を彩っていた。
さらに進んで行くと、
縁台に陣取り大きな望遠レンズを構える人たちに出会った。
「何を撮っているんですか?」と聞くと、
「カワセミだよ。ほらキレイな鳥だろ」
その内の一人がそう言って撮影した写真を見せてくれた。
確かに鮮やかに光る青々とした羽を広げるカワセミは、
人を惹きつけるものがある。
そんな思いと同時に、まさかこんな都心の庭園にカワセミがいるなんて意外だった。
カワセミは、静寂な森などに生息しているイメージがあったからだ。
広い公園ならまだしも、カワセミが生息している都内の庭園はここだけかもしれない。
静かな環境の中でそんなことを思い、ゆっくりと時間が過ぎていくのを感じた。
園内を一周し庭園全体を眺めると、
今度は背景に浮かぶ東京ドームに否応なしに目を奪われる。
落ち着いた緑の中に突如として現れる大きな丸型の白い物体は、
私の中の時間軸を呼び戻す巨大なベルのように思えた。
どっしりとかまえるその巨大な白い物体はこの庭園の門に見え、
「また、おこし下さい」
そう言っているようだった。
そしてその門をくぐり抜け振り返ったとき、
ドームの影ではなく威風堂々としたこの庭園の存在感を垣間見たのである。
写真と文:安井智洋(やすい・ともひろ/写真家)
1981年島根県生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。
広告制作会社写真部を経て独立。広告、雑誌などで活動。
日々の中からテーマを見つけて、作品制作をしている。
http://yasui-t.com/