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神戸眞平の「北海道に恋した風」

♯09 ふらりと北へ、ゆらりと島へ~焼尻


撮影地:焼尻 OLYMPUS OM-1N ZUIKO100mmF2 f8 1/500 NEOPAN400PRESTO

忙しかった仕事が一段落して、少し休みが取れたので、
一度訪れてみたかった焼尻島に行くことにした。
島への船が出るフェリーターミナルは、思っていたよりもこじんまりとしていた。
待合所には、首だけになったトドの剥製が置いてあり、
その下に丁寧に、「トド太郎君」と名前が書かれていた。
なんとなく微妙な感じがするのは、僕だけだろうか。
船内は意外なほどに狭く、乗客でいっぱいだ。
2等船室には4畳半ほどのスペースが4つあり、そこにびっしりと人が座っていた。
1等船室はどうなのだろうと、ちょっと覗いてみると、
そちらも広くはなく、それほど立派とはいえない長椅子が並んでいるだけだった。
船内の混雑ぶりに仕方なくデッキに出て、音楽を聴いていることにした。
海はベタ凪で穏やかだった。

焼尻島に着いたところで、この日の宿を探すことにした。
海岸沿いに良さそうな旅館を見つけて、引き戸を開けて中に入る。
少し怪訝そうな顔をされたが、なんとか泊めてもらえることになった。
宿が決まったところで、島を時計回りに歩いてみることにした。
道の左右には、マツヨイグサやハマナスが咲いている。
しばらく歩くと、めん羊牧場があった。
船着き場の2階に、めん羊バーベキューハウスがあるが、
ここのヒツジを焼いて食べているのだろうか。
牧場にヒツジは見当たらず、なぜかヤギが1頭いた。
退屈していたのか僕に近寄って来たが、片方の角が折れている。
いつも思うのだが、ヤギはあの細い黒目でどれだけ見えているのだろうか。
ヤギに別れを告げて、緩やかな上り坂を歩く。
船からはかなりの人が降りたはずなのに、
歩けども歩けども誰ともすれ違うことがなく、まるで無人島のようだ。
汗が噴き出してきたところで、ようやく休憩所があった。
すでに5キロほど歩いているが、さらにあと5キロ歩くと島を一周できるようだ。
休憩所から先は下りなので、戻りの道が楽なのは幸いだった。

島を一周して旅館に戻ると電話が鳴って、「食事の用意ができました」と言う。
食堂に下りると、並んでいる夕食はひとり分だけだった。
今日の宿泊客は、僕だけのようだ。
泊めてもらうお願いをした時に、変な顔をされたわけがわかった。
僕が泊まらなければ、この日は休みにすることができたのだろう。
食事が終ると、「大浴場の用意ができました」と言う。
あまり遅くに風呂に入るのは申し訳ないので、すぐに浴場へ向かった。
浴場までの廊下は、灯りが消えていて真っ暗だ。
自力で電気をつけながら進んでなんとかたどり着き、風呂場に入って驚いた。
大浴場というにはあまりに狭く、ちょっと大きな家庭の風呂のようだ。
湯船には3人くらいしか入れないし、洗い場はひとつしかない。
間違ったところに入ってしまったのかと、一度外に出てみた。
入口には確かに大浴場と書いてあるが、収容人員3人とも書いてあった。
3人しか入れない大浴場というのは、初めてだ。
この旅館は100人以上宿泊できるらしいが、その場合どのように対処するのだろう。
しかし、今日は他に宿泊客はいないのだから、大浴場が小さかろうが問題はない。
ひとりでゆっくりと湯船に浸かりながら、旅の疲れを癒したのだった。

写真・文 神戸眞平(ごうど しんぺい/トラベルグラファー)