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神戸眞平の「北海道に恋した風」

♯05 途中下車で出会った町~森


撮影地:森 OLYMPUS OM-1N ZUIKO 28mm F3.5 f8 1/125 NEOPAN400PRESTO

空はどんよりと曇り、海には霧がかかっていた。
空と海との境界は、はっきりしなくなっている。
そんな中をなんとなく歩いてみたくなって、森駅で途中下車をした。
荷物を少なくするために、カメラ以外のものはコインロッカーに入れておく。
百円玉を2枚を入れると閉まるには閉まったが、
再び開くのか心配になるほど、ぼろぼろのコインロッカーだった。

町の中のあちらこちらに、桜まつりのポスターが貼られていた。
会場の公園に行ってみると桜は満開で、多くの人で賑わっていた。
露店で森名物のいかめしと缶ビールを買い、桜の木の下でごろりと横になる。
熱々のいかめしを食べて冷たいビールを飲むと、とても幸せな気分だ。
会場ではラジオの公開放送をやっていて、演歌歌手の歌声が流れていた。
その声を聴いていると酔いも手伝って、うたた寝をしてしまった。
しばらくしてステージに行ってみると、すでに放送は終わっていたが、
森町出身の歌手が、地元の人たちと輪になって踊りながら歌っていた。
あたりには、あたたかな空気が流れていた。

桜まつりの会場を後にして歩いていると、右腕に軽い衝撃を感じた。
見るとセーターの肩から腕にかけて、白と茶のまだら模様になっている。
空を見上げると、電信柱にカモメが止まっている。
やりやがったなとカモメを睨むが、カモメは素知らぬ顔だ。
一体何を食べると、こんなマーブル状のドロドロが排出されるのだろうか。
ティッシュペーパーを出そうとしながら、ふと前方を見ると、
道路に自転車と子供が横たわっている。
トラックを避けようとして、転倒したらしい。
助けなければと思いつつも、こちらもカモメの糞まみれだ。
究極の選択を迫られた僕は、自分のことを優先させてしまった。
糞の除去にほぼ成功した時、すでに子供はトラックの運転手に助け起こされて、
無事に自転車をこいで走り去っていくところだった。
やはり助けに行くのが先だったかと、僕は心の中で反省した。
 
ホテルでセーターを洗ってから、夕食をとりに近くの食堂に入った。
空いているテーブルに座ると、ご主人が気を利かせて暖房を入れてくれた。
しかし、スイッチを入れると同時に、熱風が僕の左側頭部を直撃した。
せっかくのご厚意なので、しばらくは我慢していたが、
頭の右と左の温度が明らかに違ってきたので、暖房を止めてもらった。
ご主人は、僕の料理を作っている真っ最中にトイレに行くという暴挙に出たが、
せめて手は洗ってくれているものと信じたかった。
ホテルに戻ってベッドで寝ていると、誰かがスピーカーで叫んでいる。
窓から外を見ると、アイスクリームの移動販売車だ。
こんな時間にこんな場所で商売になるのだろうかと、しばらく見ていたが、
花冷えの夜にアイスクリームを買いに来る人は、ひとりもいなかった。

うたた寝をしたせいか、カモメに糞をかけられたせいか、熱風が直撃したせいか、
ご主人が手を洗わなかったせいか、アイスクリーム売りに叩き起こされたせいか、
その夜、僕は体調を悪くしてしまった。
しかし、僕は何だかこの町が気に入って、それから何度も訪れることになるのだった。

写真・文 神戸眞平(ごうど しんぺい/トラベルグラファー)